パソコンを整理していたら、昨年に小笠原諸島へ行った時の日記が発掘されました。
ちょっと恥ずかしい。でも、ものすごく純度の高い日記で、旅の空気感が文章を通じて伝わってくる気がします。
こんな時だからこそ、日記で小笠原旅行、ご一緒にどうぞ。
長いので、3回に分けてお届けします。

はじめての小笠原諸島への旅。
父島、母島、という聞き慣れないような聞き慣れたような名前の島々に、これから向かうのか。まだ実感がわかないまま、前日から東京に泊まる。ビルの隙間の小さなビジネスホテルで過ごす。
街の色はグレー、グレー、たまに街路樹の緑。タクシーの黄色。背の高いビルが、にょきにょきと林立する浜松町の岸壁に、白い船体が待っている。
こんにちは、おがさわら丸。なんてかわいいんだろう。清純派のすっきりした船体。丸みを帯びた煙突。これからよろしく、と心の中でつぶやく。
仕事で手がけた50周年のロゴが確かに船に入っている。じんわり嬉しさがこみ上げる。仕事だけど仕事以上の何かがある。
東京は都会すぎて苦手だけれども、船のターミナルはすでに離島ムードがむんむん漂っている。船を待つ人々は、なんだか楽しそうだ。スーツを着ている人なんてほとんどいない。
6月だけれど短パンにビーチサンダルの人がちらほら。頭がボーっとしているけれど、これから島にいくのだなぁ、という実感が湧いてくる。
タラップを昇って、船に乗り込む。部屋のドアを開けると、窓からは高層マンション、巨大な倉庫、、、にょきにょきと、人の営みが空に伸びているのが見える。
ボワーン!という銅鑼の音で、出航に気づく。慌ててデッキに出ると、お見送りの手が振られている。知らない人ばかりだけれど、思わず私も手が振ってしまう。
いってきます。
こんな門出はいつぶりだろう。もしかすると初めてかもしれない。
いってらっしゃい、の合図はますます旅のワクワクした気分をかきたてる。

あいにくの低気圧の悪天候で、海が荒れる、船が揺れてくる。(帰りはうって変わって全く揺れなかった!本当にお天気次第)
ただ波に体を任せる。不思議なもので、この波に抵抗すると酔う。波に、呼吸を合わせてぼんやり過ごす。無心になる。
これって瞑想ってやつなんじゃないか…いい具合に頭が空っぽになる。
揺れてるよな…いや、こんなもんなのか…
ぼんやりしているうちに、どんどん揺れが大きくなってくる。時折、体が、フワッとするようなしないような。新しい感じ。
船長さんのアナウンス、「これから先、海況により動揺することがあります」と聞こえる。
え、これからまだまだ?ちょっとおっかない。船の揺れに慣れていないので、これはティッシュ箱がすべり落ちるんじゃ無いか、
と思うけれども、箱は微動だにしていない。
レストランで食事をしている人の、誰のラーメンもパスタも中に浮いていない。
私のお茶漬けもこぼれない。なんだか映画の中にいるみたい。USJより楽しい。酔い止め薬も飲んでいるので、いよいよ頭の中がぼんやりする。体感はジェットコースター。でもなんだか面白い。
こんな不思議な感覚で食べるお茶漬けってない。波乗り茶漬け。たぶん遊園地よりも楽しい。波も見えるし。
面白いと思えるのは、心の底で大丈夫と思えるからだろう。おがさわら丸は何となくだけど、ぜったい大丈夫な気がする。
船乗りをしている夫から聞く大時化の話は、コピー機が吹っ飛ぶ、ハシゴが飛んでいく、とかそういうレベルだった。
たぶんまだまだ大丈夫。客船だし貨物船より安全。間違いない。これを木造帆船で航海する昔の人は、とんでもない荒くれ者だったんだろうな。そうこう考えているうちに、気がつけば寝ていた。
母なる海のゆりかごは、激しく揺れた。
(続きます)